blog
4月25日
ある満月の夜、お風呂にはいる前にもう1度、月をみたいと思った。
ウールのショールを羽織って、マンションをでると、もうそこに月はあった。
部屋の窓からはみえなかったのに。
それでも、できるだけ街灯に邪魔されない場所を探して腰をかけ、月をみあげた。
月がきれいなのは、影があるから、じゃないかな。
くっきりと影を抱えながら、強い光を放つ。
月のある方から、道を這うような黒い塊になって、
ゆっくりとおじいさんがやってきた。よく見かける人だ。
いつも、首をガクッとさげて、歩いている。
おじいさんに、月はみえないだろう。
月光を背負って歩いていた。
4月23日
午後、北西向きの窓から入る光が、テーブルの下に集まっていた。
ひとりでみるのはもったいないくらいに静かだ。
安っぽい壁紙と床材がふわっと光る。
今日、美しいと思った。
それだけは、確か。
4月18日
ドトールで斜め前のおばあさんから盗み聞きした「文藝春秋」の保管方法。
● 気に入った記事は紙の小口に色を塗る。
● 半年をメドに、小口に色のない部分を捨てる。
● 表紙と目次は必ず保管すること。何かあった時に、図書館で調べられるように。
4月7日
浅草で昼食。
エメラルドグリーンのソファーが並ぶ小さな喫茶店。
人がそばを歩くと、床が微妙に振動する。
おそらく家族経営で、お父さんはばかに丁寧、お母さんは「すみません」が口癖、
娘はキッチンで忙しくしている。
お客は地元の人ばかり、満席。
入学式帰りの親子が何組かで来ている。
親は壁際に集まり、子供達は店の真ん中あたり、
4人掛けに6人で座りコーラを飲んでいる。
格子状の大きな窓の外には、観光バスが次々と止まる。
「あー、この人達は中国人だな」
「顔も服装も少し(日本人と)違うんだよなあ」
「今度は日本人。この人達は消費税5%のときに入金した観光客。
5月になると8%の観光客がくるよ」
「ヨーロッパ人だな。どこの国かな」
「フランスじゃねえか」
おじさんの実況を聴きながら、ナポリタンを食べる。
毎日のように浅草に通いながら、
いっそのことビジネスホテルにでも泊まりたいなと思う。
観光客が羨ましい。おじさんたちが羨ましい。
3月26日
ある平日の朝、阿佐ヶ谷の釣り堀近くにある、
床屋さんの窓越しに、おじさんの後頭部が並んでいるのが見えた。
何かを読みながら順番を待っている様子。
「阿佐ヶ谷には暇なおじさんが多い」のか、
「阿佐ヶ谷のおじさんはみんな暇」なのか。
さっき、夜の散歩で前を通ると、お店の中にも外にも人だかり。
何事かと思い中を覗くと、床屋さんがデモンストレーションで髪を切っていて、
それを人々は熱心に動画におさめていました。
「阿佐ヶ谷には腕の良い床屋さんがいて、ファンは朝から並ぶ」がたぶん正解。
3月25日
昨夜の眠りが浅かったせいで、
あの言葉、誰のだっけ?、と思う。
昨日会った3人のうちの、あの子かあの子のどちらか。
昨日の記憶はミックスされて、
呆けたおばあさんみたいに、
「あなた、あのときこう話してたじゃないの」なんて、言ってしまいそう。
でも、ふたりとも、「そうだったね」って答えそう。
3月20日
昨夜はまったく眠れず。
夜、コーヒーを飲んだのがいけなかった。
だいぶ疲れてたので、影響ないと思ったんだけど。
夜中に走るトラックの音が、こんなに大きいと、知らなかった。
始発電車は意外と早くから動き出した。
朝のバイクは、ジグザグ、切れ切れに走った。
マンションの廊下で、子供がはしゃいでいた。
やがて雨音が強くなり、ザーザーザー、
もう諦めて今日を始めたらと、慰めてくれた。
3月16日
工事現場でガードマンとそばで遊んでる子供の会話。
子供
「たちいりきんし」
ガードマン
「すごいなあ、読めるのか、僕」
子供
「これがたち、これがいり、これがきん、これがし、しっていうのはとまるっていうことだよ。」
ガードマン
「すごいなあ」
子供
「はいっちゃダメってことだよ」
ガードマン
「すごいなあ、これは読める(他の看板を指差す)」
子供
「おじさん、よめないの?じゃあ、ぼくがしってることね、ぜんぶおしえてあげるね」
ガードマン
「すごいなあ、ありがとう」
3月15日
女性2人がやたらと数学的な話をしている。
よーくきいてみると、裁縫のはなしだった。
3月14日
数日前、午前の喫茶店で、泣いている女性がいた。
彼女は決して泣き虫ではない。
前だけを見て、一歩一歩ここまできたはずだ。
鼻を真っ赤にして、それでも溢れでてきた言葉は、
透明で、ぽたんぽたんとあたりを揺らした。
いつか彼女に光が届きますように、
どうかまた歩き出せますように、
彼女の話をきいている、その横顔は、
朝の光の中で、声も出さずに、ただ頷いていた。
