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160507

電車がいつもの駅に滑り込んで、私は1番線のホームに降りた。
途端に、なにかがおかしい、緊急事態だと理解する。

こちら側のホームの、閑散とした様子とは対照的に、
3、4番線のホームにいる人たちが騒然としていて、
一様にこっちをみている。

若い男たちは何人か、ホームに自分の荷物を置き、
線路に飛び込もうとしているのを、
ムツゴロウさんに似た初老の男性が、
大声を出し必死に止めている。

人々の視線の先をたどると、私の足元のさらに下、
2番線の線路の上に女性が倒れていた。
仰向けのまま動かない。

ムツゴロウさんがこっちに向かって「緊急停止ボタンを押して!」と叫ぶと、
私のそばにいた男が、落ち着いた様子でしっかりと緊急用ボタンを押した。
ブザーの音が響き渡った。

3番線のホーム、
右のほうからスーツ姿の若い男性が1人、左のほうから1人、
ムツゴロウさんの制止を振り切って線路に飛び込んだ。
線路を横切り、2人で彼女を抱え上げ、
さらに散らばっていた荷物を拾った。
女性は抱き上げられると奇声をあげた。

男たちは、こちら側のホームに上がり、
心配している様子ながらすぐに去っていったので、
私は叫んでいる彼女に話しかけた。
おかしな目をしている。
女性は私をじっと見ながら、小声で話し始めたが、
ブザーの音がうるさくて、なにも聞こえない。
そもそも私は状況が全くわかっていない。
むこうのホームからムツゴロウさんが
「強く頭を打っている」と叫ぶのだけがはっきりと聞こえる。

気がつくと駅員が数名、そばまで来ていた。
私は駅員に任せることにしてその場を立ち去った。

なにがあったのか、全くわからない。
優しい人が多い世界だなと思う。
私は数時間、同じことばかり考えていた。

2016-05-08 | Posted in blogNo Comments »